「基準値を下回っているので、問題ありません」
建物が傾いていることに気づいて、ハウスメーカーに伝えた。
非を認めている。対応もしてくれる。
数値を測って基準内だと言われれば、一見、解決したように見えます。
でも、なんだか腑に落ちない。
なぜ新築の建物が、傾いているのか。
今は基準内だとして、この先も進行しないのか。別の場所でも、同じことが起きていないのか。
納得できないのは、あなたが間違っているからではありません。
その問いに、何も答えてもらっていないからです。
傾きは表面に現れた結果にすぎません。
関谷建築事務所の調査は、測定された数値ではなく、そこに至った原因そのものを究明することを基本としています。
この記事では、当事務所が傾き調査においてどのような視点で原因を読み解いているのか、その考え方をお伝えします。
「6/1000」は、今この瞬間の数値を切り取ったにすぎない

ハウスメーカーの説明が、間違っているわけではありません。
品確法に基づく基準があり、その数値に照らして判断している。それ自体は、一般的な実務として正しい対応です。
しかしこの基準は、住宅紛争処理の参考となるべき技術的基準であり、トラブルの際のあくまでの参考値にすぎません。
その数値が計測されたのは、ある一日の、ある一時点のことです。
将来的な傾きの進行を予測するものでも、建物の長期的な安全性を保証するものでもありません。
「基準内だから問題ない」という説明は、今この瞬間の数値しか答えていません。
本当に重要なのは「何mmの傾斜か」ではなく、「なぜその傾斜が発生したのか」です。
「数値が基準内」では説明できない傾きがある
傾きの原因として、ハウスメーカーや工務店からよく挙げられる説明があります。
「品確法の基準内です」「木材の乾燥収縮です」「施工誤差の範囲です」
どれも間違いではありません。数値が基準内であることや、木材の特性に起因する変形は、実際に存在します。
しかし、新築間もない住宅で傾きが発生している場合、そうした説明だけでは答えられない原因が潜んでいることがあります。
同じ数値でも、測定スパンによって意味が変わる
品確法では、傾斜の程度に応じて以下の基準が示されています。
| 勾配の傾斜 | 構造耐力上主要な部分に瑕疵が存する可能性 |
|---|---|
| 3/1000未満 | 低い |
| 3/1000以上6/1000未満 | 一定程度存する |
| 6/1000以上 | 高い |
| 6/1000とは1mで6mmの傾斜という意味 | |
しかしこの数値は、測定したスパン(距離)によって意味がまったく異なります。
一部屋(スパン3m)での9mmの傾きは、局所的な梁のたわみや施工誤差の可能性を示します。一方、建物全長(スパン9m)での同じ傾斜率は、建物全体が地盤ごと傾く不同沈下の可能性を示唆します。
数値という「結果」だけを切り取っても、原因の推論には至りません。
「乾燥収縮のせい」という説明の自己矛盾

施工会社が傾きの原因として「木材の乾燥収縮」を挙げるケースがあります。しかしこれは、木材の特性から見ると自己矛盾を孕んでいます。
構造材は含水率20%以下のものを使用しなければなりません。日本の平衡含水率は15%程度であるため、残り5%が乾燥する際の収縮幅は全体の1%未満です。
柱や梁の幅が105mmであれば、縮んでも0.1mm〜0.3mm程度。これが床の傾きとして表面化することは、考え難い。
もし本当に「木材の乾燥収縮で床が傾いた」のであれば、それは施工会社自らが含水率オーバーの材料を使用したということになります。
梁のたわみは、間取りの計画段階で決まっている
1階に柱のない大空間を配置し、その直上に2階の居室を設ける間取りは広く普及しています。この構成自体が問題なのではありません。
その荷重の集中に対して、梁のサイズや架け方を含めた構造計画が適切に検討されているかが問われます。
これまで数百棟のホームインスペクションを行ってきた経験から言えることがあります。
現地調査の前に間取りを確認し、たわみが生じやすい箇所を予測してから計測すると、おおよそ推測通りの結果になります。
構造計画の検討が十分だったかどうかは、数値だけでは見えません。
数値が適合していても、プロセスが標準外である場合がある

床傾斜が完全に水平であっても、安心できない場合があります。
その水平を実現するために、基礎天端の不陸を基礎パッキンの2枚重ねで調整していたとしたらどうでしょうか。
基礎パッキンはメーカーにより重ねての使用が想定されておらず、建材としての耐力や安定性の保証外となります。
床が水平であっても、そのプロセスは標準施工の逸脱です。数値の裏側に潜む施工の実態を確認することが、傾き調査の重要な視点の一つです。
傾いている箇所だけを見ても、原因には近づけない
傾きの発生箇所はどこか。範囲はどのくらいか。床か、壁か。1階か、2階か。建物全体か、局所的か。
確認すべきことは、傾き単体だけでも一つではありません。
そもそも、現地で測定された数値だけでは原因に近づけない場合があります。
建物がどのような構造計画で設計されていたのか。地盤はどのように評価され、基礎はどう設計されたのか。設計図書と現況を照合して初めて、見えてくることがあります。
設計上は問題のない計画でも、施工の段階で基礎天端の水平誤差が生じていれば、傾きの原因はそこにあります。
逆に、施工精度に問題がなくても、構造計画そのものに無理があった可能性もあります。
さらに、傾きは独立して起きる現象とは限りません。
基礎のひび割れ、配管の勾配、建具の開閉不良、外壁の変形。建物全体に起きていることの一部として現れている可能性があります。
床や壁の傾きだけを見ていても、原因には近づけない。
床・壁・外壁・基礎のすべての関係性を、三次元的な「面」として立体的に捉えることが、原因を見極めるための出発点です。
家の傾き調査が一度では終わらない理由
傾きの原因は、調査した日だけをもって結論づけられるものではありません。
図面の精査と現地調査を経て、原因の仮説が立てられれば、是正工事に向けた協議に進むことができます。
しかし、不同沈下が疑われる場合は、進行性の有無を無視することはできません。
地盤の変状が続いているのか、落ち着いているのか。その見極めなしに是正工事を進めても、再発のリスクが残ります。
こうした場合、一定期間の経過観察を挟み、複数時点での計測を重ねた上で原因を推論するアプローチが有効です。
観察期間がどのくらい必要かは、住宅の築年数や地盤の状態によって異なります。一律には決められず、現地調査の結果に応じて判断します。
当事務所が行うのは「点検」ではなく「原因究明」

正直にお伝えします。
当事務所にできないことがあります。これは能力の話ではありません。責任の話です。
基礎の補修や地盤改良、構造材の交換を決定し、実施できるのは、その建物を設計し、施工し、契約上の責任を負っている施工者だけです。
第三者がその領域に踏み込むことは、「自分で責任が取れない判断」をするということです。
だから当事務所は、基礎補修も地盤改良も是正設計も行いません。
なお、施工会社との交渉や話し合いの代理・代行は、弁護士法上、当事務所が行うことのできない業務でもあります。
当事務所が担うのは、主に二つです。
- 「なぜその傾きが発生したのか」を、建築物理に基づいて究明すること。
2. 施工者から提示される是正案が、確認された原因に対して妥当かどうかを検証すること。
この二つが揃って初めて、あなたはハウスメーカーや工務店の対応に納得して進むことができます。
住宅の状態を項目ごとにチェックするホームインスペクション(住宅診断)は、現状を把握するうえで有効な手段です。しかし当事務所が行う調査は、それとは目的が異なります。
すでに起きている現象に対して、事実を確認し、仮説を立て、検証し、因果関係を整理していく。それが当事務所の専門業務です。
傾き調査で確認する、3つの視点

1. 図面・資料の精査
現地調査の前に、設計図書・構造計画・地盤調査報告書・基礎仕様・施工記録・工事写真などを精査します。
実際に建てられた建物が、設計上の構造計画や地盤評価と一致しているかを確認するためです。
設計と現況のあいだに差異があれば、それ自体が傾きの背景にある可能性があります。現地で何を見るべきかは、図面を読んで初めて見えてきます。
2. 傾きだけではない、建物全体の調査
現地では、傾きの発生箇所・範囲・方向・程度を確認します。床・壁・外壁・建具の傾斜を三次元的に計測し、基礎のひび割れや配管の勾配、仕上げの状況も調査します。
それだけではありません。
構造材のたわみや腐朽の有無、地盤の変状を示す外部の兆候も確認します。
傾きが局所的な梁のたわみによるものなのか、建物全体が地盤ごと動いている不同沈下によるものなのか。その判断に必要な材料を、建物全体から集めます。
3. 是正案の妥当性検証
施工者から基礎の補修や地盤改良、構造材の交換といった是正案が提示されている場合、その方法が確認された原因に対して適切かどうかを技術的に検証します。
「この原因に対して、この是正方法で対応した場合、今後どのような経過が想定されるか」
その問いに答えることが、検証の目的です。
是正工事中の現場確認と、その後の経過観察も業務に含まれます。
家の傾き調査報告書の内容

調査結果は、報告書として提出します。
報告書に書かれているのは、「この箇所が傾いていた」という結論だけではありません。
「なぜそう判断できるのか」という推論の過程そのものが、報告書の中核です。
傾きの発生状況、図面との照合結果、構造計画や地盤評価との整合性、他の不具合との関連性。それらの事実から、どのような因果関係が導かれるのかを、建築物理に基づいて記載します。
是正案が提示されている場合は、その方法が特定された原因に対して妥当かどうかについての技術的な見解も記載します。
根拠のなかった話し合いが、事実に基づいた協議に変わる。
報告書は当事者同士の共通土台として機能します。
この調査で、あなたが得られるもの
当事務所の調査が、すべてを解決するわけではありません。
施工者が動くかどうかは、当事務所にはわかりません。完全な解決を保証することもできません。
それでも、一つだけ言えることがあります。
今のあなたには、施工者の説明を信じるか、疑うかしか選択肢がありません。
調査が終われば、事実として判断できる状態になります。
わからないまま受け入れるより、根拠を持って判断できる方が、前に進めます。
家の傾き調査をご検討の方へ

当事務所の調査は、図面・資料の精査、現地での事実確認、是正方法の検証、必要に応じた経過観察までを一連の業務として行います。
このような状況の方からご依頼をいただいています。
- 品確法の基準値内と言われたが、納得できない
- なぜ傾きが発生したのか、原因をきちんと知りたい
- 基礎や構造材への影響が心配だが、施工者から明確な説明がない
- 是正案が提示されているが、その方法で本当に解決するのか確認したい
- 事実に基づいて、施工者と今後の対応を話し合いたい
お問い合わせから是正工事までの具体的な流れ
これまでの経緯、施工者とのやりとり、現在の状況をお聞きします。当事務所として対応できる内容かどうかを確認します。
設計図書、施工記録、工事写真などを精査します。提供資料から傾きの仮説を立て、現地調査の準備を行います。
床や壁の傾きだけでなく、建物全体の状態から原因を読み解きます。
報告書には結論だけでなく、なぜそう判断できるのか、推論の過程そのものを記載します。その根拠があって初めて、施工者の説明が正しいかどうかを技術的に検証できます。
施工者から補修案が提示された場合、その方法が原因に対して妥当かどうかを技術的に判断します。補修工事中の現場確認と、その後の経過観察も業務に含まれます。
施工者と話が噛み合わない理由を知りたい方へ
「許容範囲内です」という説明に納得できない状況が、なぜ生まれるのか。施工者との対話が噛み合わない構造そのものは、以下の記事で説明しています。
新築の施工ミスを認めてもらえない。ハウスメーカーの対応に納得がいかない方へ
ご相談・お見積り窓口
建築の知識は必要ありません。
「なんとなくおかしい」という感覚を、手放せずにいる方であれば、それで十分です。
現在の不具合の写真や、施工者からの説明資料があれば、合わせてお送りください。
なお、初回相談に費用はかかりません。







