新築の基礎ひび割れ「許容範囲内です」に納得できない|聞きたいのは基準の話ではない

「これは、弊社の許容範囲内です」

そう言われた瞬間、何かが引っかかった。でも、話は専門的で、どこをどう聞き返せばいいのか分からない。「そうですか」とだけ答えて、その場は終わった。

担当者が帰ったあと、もう一度、その場所を見に行った。

残っているのは、なぜ、という言葉だけ。

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その場で聞き返せなかったのは、理解力の問題ではない

現地に来た担当者は、丁寧に説明してくれたはずです。数値を挙げ、基準の名前を出し、他のお宅でも見られますと付け加える。

説明を受けている側に、反論の材料はありません。専門用語と数値で組み立てられた説明には、聞き返すための足場がない。黙って聞くしかなかったのは、当然のことです。

私が相談を受ける席でも、この場面の話がよく出ます。納得できていない表情のまま、質問できずに終わったという話。

そのあと、多くの方が自分で調べ始めます。検索し、AIに聞き、体験談を読む。ただ、出てくるのは一般論か、誰かの家の個別の事情です。前提が違えば結論も変わるのに、その前提は書かれていない。

調べるほど、自分の家のことだけが分からないまま残ります。

「弊社の許容範囲」には、根拠が示されない

以前、基礎のひび割れについて、2mmまでを許容範囲としている施工者がありました。

品確法で目安とされている数値は0.5mmです。4倍の開きがあります。

では、なぜ2mmなのか。この数値の出どころを遡ろうとすると、根拠は出てきません。何に基づくのか、どういう条件での話なのか、いつ誰が決めたのか。答えられる人がいない。

担当者が嘘をついているわけではありません。社内で使われてきた数値を、そのまま伝えているだけです。自社の基準として説明している以上、本人はそれを基準だと信じています。

ただ、根拠を持たない数値は、基準ではありません。

「弊社では」という前置きの付いた説明に引っかかったのなら、その感覚は正しいものです。

品確法の数値は、合格通知ではない

では、品確法の0.5mmなら根拠になるのか。ここにも、あまり知られていない前提があります。

この数値は、紛争処理の場面で、瑕疵が存する可能性を判断するための目安として示されたものです。下回っていれば問題がない、という意味ではありません。

方向が一つしかない指標です。超えていれば、構造上の問題を疑う理由になる。下回っていることは、何も証明しない。

それにもかかわらず、実際には「基準内だから問題なし」という使われ方をしています。合否を判定する物差しとして、本来そういう性質を持たない数値が持ち出されている。

数値が示されたことと、原因が説明されたことは、別のことです。

「人がつくるものだから」で終わる説明

許容範囲という言葉には、こういう説明が添えられることがあります。

「人がつくるものですから、多少は出ます」

「家は生きていますから」

どちらも、間違ってはいません。木は動きますし、施工には必ず幅があります。

ただ、この言葉で説明が終わると、肝心なところが空いたままになります。

この家のこの症状が、その「多少」に入るのかどうか。何を見てそう判定したのか。語られないのは、いつもそこです。

一般論として正しい言葉は、個別の家の説明にはなりません。

基準を満たしていることと、納得できることは、別の問題

ここまで基準の話を続けてきましたが、本題は別のところにあります。

仮に、その数値が正しかったとします。根拠のある基準で、正しく判定され、たしかに範囲内だった。

それでも納得できないことがあります。

許容範囲内であっても、気になって仕方のないものはあります。逆に、基準を外れていても、自分はまったく気にならないというものもある。

わがままでも、感情論でもありません。その家に住むのが、あなただからです。

基準は、判定のための道具です。納得をつくるための道具ではありません。

あなたが引っかかっているのは、おそらく数値そのものではない。その数値で、説明が終わってしまったことです。聞きたかったのは、なぜこうなったのか、これから進むのかどうか。その問いに、基準は何も答えていません。

納得できていない自分を、疑わなくていい

自分が神経質すぎるのだろうか。そう考えて、相談をためらう方がいます。

そうではありません。問いに答えていない説明を聞いて、納得できないのは自然なことです。理解が足りないから納得できないのではなく、答えが返ってきていないから納得できない。

必要なのは、基準と照らし合わせることではなく、なぜ起きたのかを明らかにすることです。原因が分かれば、放っておいていいものなのか、直すべきものなのかを、判断する材料が手に入ります。

判断するのは、あなたです。その材料を用意するのが、当事務所の仕事です。

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責めたいわけではないけれど、納得もできていない。その気持ちそのものについては、こちらで書いています。

施工者の説明に根拠があるかを見分ける視点は、こちらで整理しています。

症状別の原因と調査の考え方は、該当する記事をお読みください。

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執筆者

関谷建築事務所 代表
築10年未満の住宅不具合の「原因究明」を専門とする建築士事務所を運営。
大工棟梁13年、ホームインスペクション250件超を経て、現在は調査専門。専門学校の講師として建築教育にも携わっています。
争うための調査ではなく、争わずに済むための調査を提供。
事実と推論を分けて示し、依頼者が自分で判断するための土台を提示します。

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